PROLOGUEプロローグ

この本丸では毎年夏になると夏祭りが開催される。
本丸敷地内の片隅、小高い丘を登ったところにある神社では、鳥居から本殿までの参道に屋台が建ち並び、ふもとからは打ち上げ花火があげられる。
花火の前に屋台を楽しんだ後、鳥居の前の石段や、その周辺で花火を眺めるのが、この本丸の刀剣男士たちの定番らしい。

今年の夏祭りを今夜に控え、本丸内はにわかに騒がしくなっていた。
朝食もそこそこに食堂を飛びまわっている刀剣男士も多いようだ。
刀剣男士の幾人かは屋台の出店側に回っており、その準備に追われている。
だが、その様子もまた楽しそうだ。
もちろん花火を楽しみにするもの、どこの屋台から回ろうかと相談を繰り広げるもの、皆どこか浮かれ模様だ。
南泉一文字と山姥切長義もまた例外ではなかった。

「さて、猫殺しくんはどこか行きたいところはあるかい?」
「そうだにゃあ、他のやつらとも話してて、いくつか気になるところはあるんだけど……」

特に約束を交わしたわけではないのだが、当然のように一緒に行くことになっていたことに、山姥切は内心少しだけ驚いていた。
もちろん、異論はない。ちょっとくすぐったいだけだ。
並んで朝食をとりながら、今夜の行き先を相談していると、パタパタと近づいてくる足音がある。
小走りで二振りのもとにやってきたのは、後藤藤四郎と物吉貞宗だった。

「ごめん! 今日の遠征任務代わりに行ってもらえねーかな?」
「すみません、僕もお願いします」

パン、と手を合わせた後藤に続いて、物吉も申し訳なさそうに頭を下げる。

「二人とも、どうしたんだい?」

何事かと顔を見合わせ、山姥切が代表して問いかけた。

「俺、厚たちと今夜の夏祭りで屋台やる予定なんだけど、準備に追われててさ。遠征任務で俺が抜けると結構やばそうな感じなんだ」
「僕も貞宗派のみんなで屋台を出すことになっているのですが、遠征任務が入ってしまって……できれば代わっていただけないでしょうか。どちらも夕方前には終わりますので、今夜のお祭りはお二人で楽しめると思います」
「大将からは交代要員が見つかったらOKって許可はもらってるぜ。なぁ、ダメかな?」

必死な様子の二振りに、南泉のほうをちらりと見ると小さく頷かれた。うん、と自分も頷き返し、山姥切は声をかける。

「構わないよ。今日は特に予定もないしね」
「ああ。まあ長期任務だったらかんがえたけどにゃ、祭りにも間に合うんなら別にいいぜ」

そう答えると、後藤たちはほっとしたように顔をあげた。

「ありがとう! この埋め合わせはぜってーするから!」
「ありがとうございました!」

そして来た時と同じようにパタパタと小走りで帰っていく。それぞれの兄弟のもとへ向かっていったようだ。

「さてと、なら早めにメシ食って支度するかぁ」
「そうだね。あまりゆっくりしてもいられないな」

残りの朝食を手早く片付けると、足早に食堂を去った。

   *   *   *

山姥切が遠征任務から戻ったとき、南泉はまだ戻っていなかった。
戦装束を解き、一息入れる。そろそろ屋台が店を開き始める頃だ。
気の早い短刀たちのいくらかは、すでに夏祭りに繰り出しているようだ。

「さて、どうしようか」

南泉が遠征から戻ってくる予定の時刻まではまだ一時間ほどある。
それでも花火の打ち上げには十分間に合う時間ではあるが……。
このまま本格的に休憩を取ってしまうと、再び出かけるのが少し億劫になりそうな気がする。

少し考えた末、山姥切は一足先に夏祭りに出かけることにした。
南泉と共に回るのももちろん楽しいだろうが、一振りでのそぞろ歩きも悪くない。
南泉のことを考えながら回るのは、待ち人が来るとわかっているならなおのこと楽しいはずだ。
身支度を始める前に携帯端末を開き、南泉にメッセージを送る。

『先に帰ったので、祭りで君の好きそうなものを買っておくよ。花火の時刻の15分前に、主のくじ引きの屋台の前で待ち合わせしよう』

身支度を済ませた山姥切が再び携帯端末を見ると、南泉から返信が来ていた。

『いいぜ。オレの好きなもの、見事正解出来たらそこのくじの屋台で1回おごってやるにゃ』

文面から南泉の挑発的な顔が浮かんでくる。
山姥切もまた不敵に笑った。

『ははっ、いいね。楽しめそうだ。ああ、そうだ。部屋に君の分の着替えを用意しておいたよ。それを着てくるといい』

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